ソフトバンクがこれまで免許を取得していた帯域は2GHzと1.5GHzで、この帯域の電波は比較的障害物などによって遮断されやすく、距離によって減衰しやすいことから「ソフトバンクは繋がらない」「地方に弱い」などと揶揄される主な要因となっていた。 900MHz帯はその特性から、室内や建物の陰でも届きやすく、遠くまで電波が飛ぶため、既に同じような特性の帯域を持つドコモやKDDIと同じように地方や屋内でも「繋がる」ようになると期待される。 また、ソフトバンクが利用できる帯域は狭かったため、許容できる通信量に限度があり、近年のiPhoneユーザーの増加によってかなりひっ迫している状況にある。 より電波利用効率のいいLTEへの移行も、既存ユーザーを逃がしておく分の帯域が確保できないため実施できないという問題があった。LTEへの移行可否は通信キャリアとして死活問題だっただけに、900MHz帯を確保してLTE移行が可能となって一安心といったところだろう。 参考:高速通信サービス「LTE」とは このように、これまでソフトバンクが抱えていた大きな問題は、900MHz帯を確保したことで解決へ向かうことが期待される。 しかし、900MHz帯を割り当てられたからと言って、これらの問題はすぐに解決するかというとそうでもない。ソフトバンクが行く道のりはまだまだ険しいものである。
900MHz帯をすぐに使えるようにはならない
ソフトバンクが900MHz帯を利用するには、基地局の整備が必要になる。つまり900MHz帯用のアンテナが必要になる。 900MHz帯用の基地局は、ソフトバンクの既存のものと比較すると4倍程度の面積が必要となるため、整備には場所の確保から始めなくてはならない。 もちろん、これには途方もない時間と経済的なコストがかかる。900MHz帯への設備投資額はイー・アクセスが1442億円、ドコモやKDDIが2500億円前後なのに対し、ソフトバンクは8207億円を計画している。ソフトバンクは今回の割り当てが決定する前に、先行して設備投資を開始しているが、その理由もこのような事情によるものと思われる。 ソフトバンクが総務省に提出した900MHz帯基地局の開設計画によると、運用開始は平成24年7月25日を予定しており、24年度末で人口カバー率22.2%、25年度で63.3%、26年度に96.1%を見込んでいる。全ての管内で人口カバー率50%を達成するのは26年度になるという。 この計画は、既存の設備を活用できるドコモやKDDIの計画よりも圧倒的に早い。他社が保守的な計画を立てている可能性もあるが、場所の確保という問題を抱えるソフトバンクにとっては、かなりアグレッシブな計画だと言えるだろう。 ソフトバンク・孫正義は、これまでに何度も不可能と思えることを実現してきただけに、今回の計画も実現してしまうのかもしれないが、いずれにしても、ユーザーが900MHz帯の恩恵を受けられるまでにはもうしばらくの時間が必要となる。
900MHzでiPhoneが使えるとは限らない?
900MHz帯にはもう一つ懸念がある。それは、iPhoneを始めとする端末が利用できるかどうかという問題だ。 iPhoneはスペック上は900MHz帯の通信に対応するが、総務省の技術基準適合証明を受けていないため、法律上は900MHz帯の技適証明を得なくてはならない。通常ならば、証明を獲得さえすればいいのだが、ここに問題がある可能性がある。 というのも、日本においては、900MHz帯の近くにドコモやMCA無線システム利用する850MHz帯があり、これらが相互干渉する可能性があるからだ。 これについては、試験をしてみないと干渉するのか否かが分からないが、もし干渉するとなった場合、850MHz帯を利用するドコモと協力して解消しなければならない。こうなると、この問題の解決にはかなりの時間を要すると思われる。
いずれにしてもユーザーにとっては福音か
と、900MHz帯を獲得するとはいえ、ソフトバンクには課題が山積みという状況ではある。 しかし、ソフトバンクのユーザーにとっては、少なくとも現状よりは通信環境が改善することは明白で、メリットを受けられるのは間違いないだろう。 また、他キャリアのユーザーにとってもメリットがある。これまで通信品質で劣っていたソフトバンクの競争力が強くなることで、これまで以上に料金や付加サービスでユーザーに貢献することが求められるようになる。 特にソフトバンクは価格競争力が強いため、他社に対する通信料金引き下げ圧力が高まるのではないかと予想される。 ソフトバンクには、ぜひとも900MHz帯利用の早期実現を期待したい。
総務省|3.9世代移動通信システムの普及のための特定基地局の開設計画の認定