グラフ検索とは
米時間1月15日、Facebookはプレスイベントにおいて新しい検索エンジン「Graph Search(グラフ検索)」を発表した。すでに英語圏の一部ユーザを対象にβテストが開始している。 このグラフ検索は、Facebook内の公開・共有情報を元にした検索機能。まず、人、写真、場所、興味にフォーカスしてスタートする。
例えば、以下のようなフレーズを検索ボックスに入力していくことで、様々な情報を探すことができる。
friends who live in my city(私の街に住んでいる友だち) photos of my friends before 1999(1999年以前の友だちの写真) restaurants in New York liked by chefs(シェフにいいね!されたニューヨークのレストラン) movies liked by people who like movies I like(私の好きな映画を好きな人たちにいいね!された映画)
検索結果は、タイトルを付けて保存し、友だちと共有することも可能だ。 また、今回の検索機能においては、プライバシー保護の問題がユーザの重大関心事となるだろう。この点については、プライバシー設定により検索され得るコンテンツを決定できるので問題ないというのがFacebookの立場だ。
FacebookとGoogleの競合関係が鮮明に
Facebookの変化
Facebookのグラフ検索は、グラフ(人と人とのつながり)という言葉が意味するとおり、ユーザ同士のつながりをベースとして、ユーザが求める情報を提供する試みだ。 10億人のユーザを抱えるFacebookのデータベースには、ユーザのコメントや趣味嗜好、行動履歴、アップロードした写真などが大量にストックされているが、これまでユーザ自身がそれらの情報を直接探し出すのは難しかった。 しかし、グラフ検索によってFacebook内部でのユーザの行動パターンは変化していくことだろう。例えば、友だちと一緒に撮影した写真を見たい場合、その友だちのタイムラインに移動するのではなく、検索バーから検索して写真を閲覧する、といったように。 この変化は、Googleが登場する前と後でWebにおけるユーザの行動パターンが検索中心に変わったことと類似している。
Googleの危機
では、検索の王者であるGoogleの立場からグラフ検索を考えてみるとどうだろうか。
従来のGoogle検索は、ページ同士のリンクをベースに情報の価値を判断し、検索ユーザの求める情報を提供してきた(ページランクという概念がその最たる例)。その検索アルゴリズムは、年々複雑化しており、現在では数百に及ぶ要素により検索結果が決定されている。また、近年では、検索結果はユーザの検索履歴などを利用してパーソナライズされており、個々のユーザごとに異なる検索結果が表示されるようになっている。そして昨年、Googleは各サービスごとのプライバシーポリシーを統合し、ユーザ情報のサービス横断利用が可能となっているため、インターネット上のユーザ行動が検索結果に反映されているのが現状だ。 このGoogle検索の根本を支えているのは、Webページを可能な限りクロールして、データベースにインデックスするという手法だ。したがって、GoogleがインデックスできないWeb領域が増大していくことは、検索をベースにしたGoogleサービスの根幹を揺るがすことになる。そして、FacebookはGoogleにインデックスを許していない。よって、Facebookがグラフ検索とともに強大化していくことは、検索関連広告からの収益に大きく依存しているGoogleにとっては大きな危機以外の何物でもない。 ユーザの検索行動の開始点がGoogleからFacebookに徐々に移行していく可能性や、Facebookのグラフ検索の対象がWeb全体に拡大する可能性を考慮したとき、Facebook内の情報を検索できないGoogleは窒息していく可能性があるのだ。
FacebookとGoogleの「オープン」をめぐる対立
Facebook CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、昨年の株式上場時に公開書簡で"Our mission is to make the world more open and connected.“と述べたように、Facebookは世界と私たちの関係をより「オープン」にすることを目指している。
一方で、Googleも「オープン」なWebを理想としている。Googleのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」ことを達成するためには当然のことだろう。 しかし、両社の目指す「オープン」は意味がかなり異なる。 Googleにとっての「オープン」なWebとは、Googleがページを可能な限りインデックスすることができるWebのことだ。他方、Facebookにとっての「オープン」とは、Googleがインデックス不可能な閉鎖的な領域内における限定的なものであり、その範囲内で個人情報を可能な限りさらけ出すことを意味する。 だからこそ、一昨年からGoogleはソーシャル化を強力に推し進めてきた。その中心となるのがSNS「Google+」だ。そして、現在では大半のGoogleサービスをGoogle+と連携させるに至っている。Webのソーシャル化が避けられないのであれば、自らがソーシャル化の中心にならなければ生き残れない恐れがある。それも、Googleの力の源泉は、Web≒Googleであるところに存在しているからだ。 FacebookとGoogle、いずれの「オープン」が世界と私たちにとって良い結果を生むのか議論があるところだろう。 ただ、はっきりしていることが1つある。それは、少なくとも潜在的には両社の対立が引き返せないところまで激化しているということだ。